センチュリー クーペとは――JMS 2025で示された「到達点」のかたち
トヨタは「Japan Mobility Show 2025」(会期 2025年10月30日~11月9日)において、センチュリーブランドの新たな方向性を体現する2ドアのコンセプトモデル「センチュリー クーペ」を公開しました。
会場では豊田章男会長によるブリーフィングが行われ、センチュリーをトヨタの社内序列における最上位かつ独立した存在として改めて位置づける方針が明確に語られています。
専用のセンチュリーブースが設置され、単なるショーモデルの披露に留まらない、ブランド戦略の“宣言”としての色合いが濃いプレゼンテーションとなっています。
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センチュリーの再定義――レクサスの上に据える「独立した最上位」
今回まず確かめておきたいのは、センチュリーが「トヨタの1車種」でも「レクサスの延長線」でもなく、独立した最上位ブランドとして位置づけ直された事実です。
レクサスが先進性とレンジの広さでラグジュアリーの中核を担う一方、センチュリーはさらに上位に“到達点”を定義します。
量より質、汎用性より個のしつらえという思想のもと、「One of One」を合言葉に工芸的な佇まいと乗員中心の設計哲学を徹底。スペックで優劣を競う競技から距離を取り、触れた瞬間の質感、座り心地、動き出しのたしなみ、そして降りた後に残る余韻までを設計の射程に収めます。
センチュリー クーペは、その価値観を最も純度高く可視化するために2ドアを選んだ「ショーケース」であり、レクサスとの差別化を目に見えるかたちで描き切っています。
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エクステリアの要所――流麗なロングノーズ、ファストバック、そして“日本の意匠”
スタイリングはロングノーズとファストバック調のシルエットが基調です。遠目には端正でありながら、近づくほどに緊張感のある面構成と微妙なエッジの効かせ方が見えてくる、センチュリーらしい彫りの深さが感じられます。
フロントは組子細工を想起させる意匠のグリルを据え、中央に鳳凰(ホウオウ)エンブレムを掲出。4眼LEDのライティングシグネチャーは、夜間の存在感を主張しながらも過度な攻撃性を避け、静けさと品位を外観から語ります。
ホイールは矢羽根モチーフのスポークで統一され、回転時の視覚効果まで計算したかのような“たしなみ”が通底しています。大型のドアはキャビン全体の見せ方を左右する要素として扱われ、前方スライド機構の演出と相まって、後席志向のパッケージを強く印象づけます。
結果、クーペでありながら“主の居室”へのアクセス性と鑑賞性が両立する造形となりました。
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ドアとパッケージの哲学――後席が主役のクーペ
ドアレイアウトは“観音開き”やBピラーレスを想起させる見せ方が採用されています。これは展示的ギミックにとどまらない可能性があるかもしれません。
センチュリーが本来担ってきた「後席のための最上級」を、クーペという形式に移し替える試みと読み取れます。
一般的に2ドアはスポーツ性の誇示と結びつきやすいボディですが、センチュリー クーペは真逆の方向です。
乗降の所作にノイズを加えない開口、着座後に自然と落ち着く視界の高さ、そして室内の光の回り方までを含めて、主賓の体験優先でパッケージングが図られています。
動きの設計も同様で、加減速や姿勢変化の1つ1つが会話や思考を邪魔しないことを最上位の要件として据えた“静かな運動性能”がイメージされます。
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クラフトマンシップの言語化――記号を超えて“空気”を設計する
組子、鳳凰、矢羽根――これらのモチーフは、日本的クラフトマンシップの明快なサインですが、センチュリー クーペが目指すのは記号の列挙ではありません。
手で触れたときの温度感、ドアを閉めたときに耳が拾う圧の移ろい、舗装の目地を跨ぐたびに伝わる微細な入力の丸め方。これらの接点に“不要な情報を混ぜない”ことが、結果として音や振動そのものを消し込む以上の心地良さにつながります。
スペック表の数値で説明しづらい領域をこそ磨き上げる――そのための自由度とコストの配分が、センチュリーをレクサスの上位に置く根拠であり、ブランド独立の必然でもあります。
クーペという形式は、その思想を最も端的に伝える「器」として選ばれたに過ぎません。
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未発表事項とショーケースとしての位置づけ
パワートレインやボディサイズといった技術仕様は、現時点で詳細が公表されていません。
これは後追いの調達都合や開発フェーズの問題ではなく、今回の公開が“ブランドの指針を提示するショーケース”であることの表れと捉えるのが妥当です。
センチュリーは“Top of Top”“One of One”を標榜し、ロールス・ロイスやベントレー級を見据えた超高級領域への本格参入を志向します。
その象徴がクーペであり、量産可否や時期、価格帯が未発表なのは、プロダクトの完成度をもって静かに答えを示すための時間を確保しているからにほかなりません。
センチュリーの系譜を考えれば、数字の開示よりも、まず体験の設計思想を先に世に出す順序は理解しやすいはずです。
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海外報道と期待値の整理――「フラッグシップ候補」はあくまで見立て
海外メディアの一部では、センチュリー クーペを新生センチュリーブランドのフラッグシップ候補と見立て、グローバル展開の可能性に言及する論調が見られます。
しかし、トヨタからの正式なアナウンスは現時点で存在せず、仕様・発売計画・価格帯は“保留”のままです。
ブランド戦略全体のリズムを乱さず、最適なタイミングで確度の高い情報を出すのがセンチュリー流であり、今回のJMS 2025は、あくまで「次世代ラグジュアリーの方向性」を先行して示す場でした。期待は育てつつも、事実と解釈を峻別して受け止める必要があります。
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センチュリークーペとシリーズ既存モデルとの関係
センチュリーSUVの年次改良(調光ガラスの採用など)や、2023年に発表された新型センチュリー PHEVは、センチュリーブランドの文脈を補強する重要な既存トピックです。
ただし、これらはセンチュリー クーペの市販仕様を直接示す材料ではありません。
SUVやセダン、そして今回のクーペという複数の器を通じて、センチュリーが目指す“静かな到達点”の輪郭が少しずつ濃くなっていく。そのプロセスを経ることで、ブランド独立のメッセージに説得力が生まれます。
ラインナップが広がること自体を目的化せず、どの器でも「誰の真似もしない完全な調和」を目指す。この姿勢が、センチュリーを唯一無二の存在へと押し上げています。
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動きそのものの品格――“静かな運動性能”が描く所有体験
センチュリー クーペが提示したのは、スポーツ性の誇示ではなく、動きそのものの品格です。
走り出しの初期応答から減速時の姿勢変化、路面入力の丸め方に至るまで、乗員の会話や思考を乱さないよう配慮したチューニングが連想されます。
視覚・触覚・聴覚の各接点では「不要な情報を混ぜない」思想が貫かれ、結果として“静粛”や“乗り心地”という言葉で括りきれない余韻が残る。
スペック表で置き換えづらい価値を、あえて数値ではなく体験の言語で語るのがセンチュリーの流儀です。もし量産という結実が用意されるなら、それはエンジン出力や0-100km/hタイムの競争ではなく、所有の時間そのものを静かに塗り替える「しつらえ」として現れるはずです。
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JMS 2025という舞台――トヨタグループ横断の“次章”と呼応する
センチュリー クーペの公開は、直近でトヨタグループが示してきた横断的プロジェクトの発表群と歩調を合わせるように行われました。
トヨタ自身の変化、そして関連各社の役割再定義が進む今、センチュリーは“Top of Top”として群像の最上段から全体の方向性を照らします。
JMS 2025のブースにおけるセンチュリー素材の展開や語り口は、プロダクトの説明に終始せず、むしろ「これからの高級とは何か」という問いを来場者に投げかけるものでした。
センチュリー クーペは、その問いに対する暫定解であり、同時に次の問いを誘発する装置でもあるのです。
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センチュリー クーペ まとめ
まとめ更新日: 2025/11/04
- センチュリークーペがJMS 2025で公開
- 2ドアのコンセプトカーでセンチュリーブランドを再定義
- センチュリーはトヨタ内で独立した最上位ブランドへ格上げ
- ロングノーズ×ファストバックの造形に、組子グリルと鳳凰エンブレムを組み合わせ
- 4眼LEDと矢羽根モチーフのホイールが“静かな存在感”を演出
- 諸元は未公表で、まずブランド指針を伝える意図が優先


































































